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Interview / クローズアップ東京人

Vol.1

「両手の会(りょうてのかい)」創始者、医師

井上 肇さん

2023.10.27

豊かな現代で、真の豊かさを得るには、すぐれた選択眼を養うことが必須。

── 両手の会では、両手使いになるための訓練とともに、健康に関する知識を養うことを活動の大きな柱としていますね。健やかな老後を迎えるためには、よい知識を得ることが欠かせないということですね。

井上:近年、健康格差は広がるばかりですが、その大きな原因の一つが「豊かさ」です。「豊か」とは「選択肢が豊富」であることですが、それは、「すばらしい選択肢」が増えた同時に、「悪い選択肢」も増えたということでもあります。このような状況の中で、「健康」を含む真の豊かさを享受するために一番大切なのは「すぐれた選択眼」です。
たとえば食べ物。私が子どもの頃は、周囲には伝統的に安全な食べ物しかなく、親が食事を管理していました。しかし今はどうでしょう。ありとあらゆる食べ物が氾濫し、判断力のない子どもでもお金さえ払えば自動販売機で何でも手に入ります。このような環境で育つとどうしても健康意識が低下してしまいます。子どもは正しい選択眼は持ち得ませんから、大人が子どもに正しいものを選択してあげなげればなりません。悪いものを選んでしまうと不健康にさらされることになり、しだいに健康格差が生まれていくのです。
両手の会は、この「すぐれた選択眼」を養うことを目的としており、そのための意識・知識・技(技術)を身に着ける訓練と学習を行っています。その一部として両手使いがあります。

── 多くの可能性を秘めた「両手使い」を、日本全国に啓蒙・普及することは、大きな意義があります。今後どのように、両手使いを普及していこうと考えていらっしゃいますか?

井上:両手の会は、未だに僕のボランティアの域で開催していますので、今後は会を組織化し、「両手使い」になるためのカリキュラムを体系化し、全国に拠点を作って両手使いを育成していることが必要です。現在も都内で講演会を行っておりますし、教材として両手書字速習ドリルの作成、小学校に両手使い同好会を作る、病院に拠点作りを提案するなど、そのための準備が現在進行中です。若い人も含めなるべく多くの人に「両手使い」を体験していただきたいですね。このインタビューを読んだ方々も、お知り合いの方々に「両手使い」のことを教えてくださると大変うれしいです。
インドのある小学校では、1999年から全校生徒に両手書字を教えていて、両手書字教育の実践校として全世界から注目を浴びています。どの生徒も、右手と左手を使い、しかも異なった文字を同時に書く事ができるといい、両手書字が学習の助けになっているようです。夢は、「両手使い」を「技(わざ)」から、「新しい文化」に昇華させることです。全国民に両手使い文化が普及すれば、日本は今とはまったく違う国になるはずです。そこにはとてつもない未知のブレイクスルーが潜んでいるかもしれません。

インド北部マドーヤブラデシ州、Singrauli地区にある「Veena Vandini School」での両手書字訓練の様子。YouTube Shiv Shankar Kachhapチャンネルの動画より

苦難に会っても、自分だけではないと「容認」すると心が落ち着きます。

── 先生は90歳になられますが、今も、ご自分のクリニックや他の病院で診療を行い、リハビリテーション学校で整形外科の講義もされています。齢をとっても元気に仕事を続けられる秘訣は何でしょうか?

井上:私の友人でも、この年齢で仕事を続けているのは数人ですね。今も診察、講義で週4日は働いています。このクリニックは開業時から日曜診療ですので、37歳から今日まで日曜日に休んだことがありません。他の病院に移動する日は、1万歩も歩きます。仕事を続けていられる秘訣は、やはり「元気なこと」につきます。幸い、妻も元気で、現役の絵描きですので、お互いの仕事に没頭することができます。規則正しい生活と運動も大切で、私は7時に起きて、3食きちんと食べて11時には寝ます。バランスがとれた筋トレもしています。長生きなのは、私の父が102歳まで生きましたので、遺伝子のおかげもあります。たださすがに、そろそろ診療はやめようかなと考えています(笑)。

診察を行う井上医師(下落合整形外科診療所にて)。

── 趣味は、「蛙コレクション」と伺っていますが、なぜ蛙だったのですか? また90歳になって新たに始めてみたいことはありますか。

井上:1972年のアメリカ留学時に、家具付きアパートで、椅子の上に置いてあった蛙のぬいぐるみと目が合ってしまい、その子があまりにも頓狂で別れられなくなり、いただいて連れて帰りました。以来、集めたりいただいたりして、いろいろな蛙が集まりました。診療所にも庭にも、ふとしたところに蛙がいますので見つけてください(笑)。
始めたいのはピアノを習うことですね。小学校時代は戦時下で、楽器といえば軍隊ラッパと竹のフルートでしたので、ちゃんと音楽をやってみたいです。「やったことがない、だからやる」です(笑)。ピアノはまさに両手使いの楽器でもありますしね。

── 最後に、井上さんが、これまでの人生で、頼りにしている考え方や言葉を教えてください。

井上:齢をとって、いちばん大切なのは「容認」です。いやなことが起こると、多くの人は「なぜ自分だけが」と思います。そこを、「自分と同じような人はいくらでもいる」「自然の摂理なのだ」と考えて、容認するんです。そうすると、自律神経が安定し、悲しみや恐怖心が消えて心が落ちつきます。
好きな言葉は「正射必中(せいしゃひっちゅう)」です。これは弓道の言葉で、正しい姿勢で射れば、必ず当たるという意味です。弓矢と同様に、人生も、正しい姿勢で向かえばうまくいく。目先の損得を追うのではなく、まずは正しい方向性を定めて、そこへ向かっていくことが大切です。常日頃、この言葉を肝に銘じています。

井上肇さんからのメッセージビデオ

井上肇さんの東京さんぽ

東京・成城で生まれ育った井上医師は、若いころから大の旅行好きで、2度の世界一周、南イタリア・単独ヒッチハイク旅行、アメリカ・グレーハウンドバス旅行など、数々の個性的な旅もしてきました。お散歩も大好きで、「人のいないところで静かに風の音を聞くのが好き」なのだそう。お住まいと診療所がある東京・目白は奥さまの生まれ育った土地で、結婚後に移り住み約40年。「この辺はとても住みやすい。目白通り沿いには大きな公園があり、神田川が流れ、自然も豊か。有名な庭園、施設が連なっていて、恰好の散歩コースです」とのこと。おすすめのお散歩スポットも、大好きな目白通り沿いにあります。

文京区立目白台運動公園MAP

文京区の中では最大の面積を有する公園。故・田中角栄元総理の「目白御殿」の庭の一部が相続税として区に物納され、公園の土地の一部になっています。広い芝生スペース、多目的運動施設の他、原生林の生き残りを思わせる木陰広場があります。

文京区立肥後細川庭園MAP

運動公園の隣接地に、細川家の住まいだった松聲閣(しょうせいかく)、さらに下ると肥後細川庭園。目白台の台地(関口台地)の自然景観を生かした池泉回遊式庭園で、「ホテル椿山荘東京 庭園」や「関口芭蕉庵」が隣接。

東京カテドラル聖マリア大聖堂MAP

東京のカソリックの中心的な教会。建物は丹下健三設計。フランスにある聖地「ルルドの洞窟」のレプリカがあります。井上医師は、この前に座ってボーッとしていることもあるそうです。

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取材・文・動画編集

Wakako

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井上肇医師とは、私が健康雑誌の編集者だった時に知り合って、とても長いお付き合い。ハンサムな容姿とやさしいお人柄は昔と変わりません。井上医師が主宰する「両手の会」のことを聞いて、「両手で字が書けるなんてカッコイイ!」と思いました。「やったことがない。だからやる」という両手の会のモットーに従って、私も、最近、左手書字の練習をスタート!両手使いになって、みんなに自慢したいな!

写真&動画撮影

M.Suematsu

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